軽量化から見る自動車技術の変遷

自動車は現在の私たちの生活に欠かすことができない存在となっており、ほとんどの家庭で所有されています。古くは1769年にキュニューが蒸気自動車を発明し、1876年オットーによるガソリンエンジン発明から1886年にはベンツでガソリン三輪自動車が開発されました。当初でこそ一部の人しか持っていませんでしたが、その後生産技術の発達により大量生産が可能となったことで、今では世界の自動車生産が年間約8,000万台といわれています。この開発の歴史の中、常に考えられてきたのが自動車の軽量化です。そこで、本稿ではなぜ自動車の軽量化が必要とされるのか、また軽量化はどのような歴史をたどってきたのかをご紹介します。

概要

自動車の軽量化がもたらすこと

自動車の研究開発の中で、常に自動車の軽量化は検討されてきました。自動車の性能向上の方法としては他にも空力性能の向上や転がり抵抗の低減など様々です。しかし自動車の軽量化に成功すれば、多くの自動車の性能向上につながります。自動車の軽量化によりどのようなメリットがあるのか、ご紹介します。

燃費向上

自動車の軽量化によりもたらされるメリットとしては、まず燃費向上を思いうかべる方が多いかと思います。自動車が軽量化されれば、自動車を動かすための力が小さくてすみます。それは自動車の動力であるエンジンにかかる負荷を下げることができるのです。エンジンを動かすためのエネルギーを少なくすることができることから、燃費の向上へとつながります。

操作性向上

自動車が軽量化されれば、先にも述べた通り自動車を動かすための力が小さくてすみます。つまり、加速性能が良くなるのです。また軽量化は運転中の急停車やカーブ時にかかる慣性力を小さくします。そのため、停車時のブレーキ性能やカーブ時のハンドリング性能を向上させます。

安全性向上

自動車の軽量化による慣性力の低下による効果は操作性の向上だけではありません。事故を起こした際の衝突による衝撃を小さくすることができます。つまり安全性の向上にもつながるのです。

コスト削減

自動車の軽量化を実現する方法の一つとして、使用する部品の数を減らす方法があります。部品の数を減らすことができれば、材料費や加工費などの製作費を下げることができます。その他にも部品の在庫管理が簡単にできることから、在庫管理にかける費用も低減可能です。自動車の軽量化はコスト削減までも実現するのです。

軽量化とボディの材質。その歴史

以前自動車はモノコックボディで製造されていることから、ながく鉄が一般的に使われてきました。モノコックボディとはボディとフレームを一つの構造体とする製造手法であり、複雑な構造となります。鉄は加工のしやすさから、長くモノコックボディである自動車の製造に使用されていたのです。しかし近年の製造技術の発展により、自動車に使われる材料に変化があらわれています。

自動車の性能向上や機能の充実をはかると、自動車の重量は増加することになります。自動車の性能や機能を維持しつつ軽量化を実現するためには、鉄よりも軽くまた強度が強い材料を使用する必要があったのです。当初は加工性やコストの問題から鉄以外の材料の使用は進みませんでした。しかし近年は研究開発の結果、多くの自動車で鉄以外の材料が採用されてきています。

ホンダのNSXやアウディのR8などではアルミ、スズキのスペーシアやマツダのCX-5では高張力鋼板、トヨタのレクサスLFAやFCVではCFRPが採用されています。そして今も更なる製作コストの削減、性能向上のため研究・開発が進められているのです。

ボディ材質の変化とともに変わる接合技術

近年の製造技術の発展により、以前は鉄が主流だった自動車の材質も軽量化のためアルミや高張力鋼板、CFRPと多様になってきました。鉄では接合技術として溶接や機械的接合が主流でしたが、材料が変わると接合技術も変わってきます。

高張力鋼板は材料としては鉄なので、問題なく溶接ができます。しかしアルミは物理的性質上、溶接をすると酸化してしまい、また鉄よりもひずみが発生しやすいことから、溶接での接合が困難です。そのため、アルミはリベットや接着剤による接合が採用されています。また、プラスチックであるCFRPでは、赤外線レーザーで加熱することにより接合する溶着が採用されています。

その他にも回転させながら対象を突き合わせることにより接合させる摩擦撹拌接合や、同じ材料同士の接合だけでなく異種材料接合の研究・開発も進んできます。自動車の軽量化を目的としたボディ材質の変化は、接合技術についても大きな変化をあたえているのです。

これからも研究開発が続く自動車の軽量化

自動車の軽量化が進んだ現在であっても、さらなる軽量化を目指し開発が進められています。電気自動車や自動運転の開発など様々な新しい技術が開発されていくと同時に、材料についても新しい材料が開発され、さらなる軽量化につながるかもしれません。そうして自動車はより私たちにとって身近で便利なものとなり、豊かな生活を送る助けとなることでしょう。