輻射(ふくしゃ)加熱の特徴と原理―物質の持つ輻射率と吸収率とは

輻射(ふくしゃ)加熱の仕組みについて解説します。輻射とはどのような現象で、それにより物体はどのように加熱されるのでしょうか。また、物体の持つ輻射率と吸収率、反射率と透過率にはどのような関係があるのでしょうか。

概要

輻射加熱とは

触るとひんやり冷たいような、一見完全に静止している物体でも、実は周囲に影響を与えているのをご存知でしょうか。万有引力や重力、それに対する応力といったもののほかにも、物体にはあるエネルギーが働いているのです。それが輻射です。

絶対零度より温度が高ければ、どのような物体も電磁波を常に放出しています。このような、物体から電磁波が放出される現象を輻射といいます。輻射は放射と表現することもあり、その電磁波のことを指して輻射と呼ぶこともあります。

物体は温度を持つ限り常に輻射を行っている一方で、物体が電磁波を受け取ったとき、そのエネルギーを熱に変える性質も持ちます。これを輻射熱または放射熱と言い、輻射熱が発生する状態を人工的に作り、電磁波の輻射を利用して加熱する仕組みを輻射加熱と呼んでいるのです。

輻射加熱の原理

では、輻射によるエネルギーが物体に当たったとき、なぜそれが熱へと結びつくのでしょうか。

例えば人がお風呂でお湯に浸かったとき、お湯の持つ熱が人体に伝達することで温まります。このような熱の伝達方式は対流熱伝達と呼ばれ、輻射加熱とは別の加熱方式です。一方で、輻射加熱による熱伝達では電磁波を発する側、受け取る側の二つの物体間に媒体となる流体を必要としません。

だれもが体験したことのある輻射加熱の例として、太陽の光を浴びると体が温まる現象があります。太陽と地球上の人体の間には真空の宇宙があり、熱を伝えるための媒体はありません。しかし太陽の光を浴びると体が温まるのは、電磁波の働きによるものです。

太陽は、可視光線を含むさまざまな波長の電磁波を放出しています。電磁波は物体に当たると、表面で反射されるもの、透過して通り抜けていくもの、吸収されるものの三つに分けられます。このうち輻射加熱のもととなるのは、物体に吸収される電磁波です。

物体を構成する分子は、常に分子運動を行い振動・回転しています。物体に吸収された電磁波は、物体の分子運動による振動と共振したとき、分子運動を増幅する働きがあります。揺れているブランコを、タイミングを合わせて後ろから押してやると揺れが大きくなるのと同じ現象です。こうして分子運動が増幅されると、物体内部の分子同士が摩擦熱を生み、物体の温度が上昇します。

このように、発熱体と物体の間に熱を伝える媒体がなくても、電磁波の働きによって加熱するのが輻射加熱の原理です。

輻射率と吸収率

物理学では、輻射のエネルギーをすべて吸収し、熱に変えることができる理想的な物質を黒体と呼んでいます。これは理論上の物質であり、架空のものです。しかし実在する物質は、黒体のようにすべてを吸収できるわけではありません。実在の物質では、物質に輻射が到達したとき、そのエネルギーは吸収されるもののほか、通り抜けて反対側へと抜ける透過、跳ね返され別方向へ飛ぶ反射へと分けられます。このうち吸収されたエネルギーだけが輻射熱へと変わるのです。

このとき、輻射のエネルギーがどのように分けられるかは物質が持つ性質によって変わり、分けられるエネルギーの割合をそれぞれ吸収率、透過率、反射率と呼んでいます。これらは足すと100%となります。

物質は常に電磁波を放出していて、これを輻射と呼ぶことは最初にご説明しました。この輻射の割合を輻射率と言います。ドイツの物理学者グスタフ・キルヒホッフ氏は、輻射率と吸収率は等しくなることを証明しました。これがキルヒホッフの法則です。

輻射率、または吸収率はきれいに磨かれた金属のように光沢のあるものでは小さくなり、光沢のないもの大きくなります。これは可視光線で考えるとわかりやすいのですが、表面がなめらかで光沢があるものは反射率が大きくなるためです。表面がなめらかでなくても、ステンドグラスのように半透明なものでは、透過率が大きくなるため、輻射率は小さくなります。

また、輻射率は色により影響を受けることもわかっており、白いものより黒いものの方が大きくなります。

輻射率の小さいものを考えると、きれいに磨かれた金・銀・銅など光沢の強いものが代表的です。磨いた鉄、酸化して表面がざらついた金属などが、輻射率の小さい順として続きます。輻射率の大きいものとしては、表面のザラザラした煉瓦(れんが)やコンクリート、木材などが大きく、塗装面では白の塗装より黒の塗装の方が輻射率は大きくなります。

加熱効率を考えるときには物質の輻射率を考える

輻射加熱について、どのような原理で熱が発生しているのか、どのような条件のとき輻射加熱の効率が上がるのかをご紹介しました。電磁波による輻射加熱の効率を考えるときには、物質の持つ輻射率を考える必要があります。物質の輻射率が大きい場合、加熱方法として輻射加熱が適していると言えます。