赤外線ヒーターの波長による分類と用途の違い

赤外線ヒーターにはさまざまな種類があります。ここでは、ハロゲンヒーター、短波長赤外線ヒーター(近赤外線ヒーター)、中波長赤外線ヒーター(中赤外線ヒーター)、長波長赤外線ヒーター(遠赤外線ヒーター)の4つについて、それぞれの特徴と用途をご紹介します。

概要

ハロゲンヒーター

ハロゲンヒーターは、ハロゲン電球を発熱体とした赤外線ヒーターの一つです。最大エネルギー波長はおよそ1μmと、可視光線に比較的近い波長域を持ち、短波長赤外線ヒーターに含まれます。放射する波長は主に赤外線域ですが、可視光線粋の波長も多く含まれています。可視光線も多く放出しているため、他の赤外線ヒーターにより比較的まぶしい光が発熱体であるハロゲン電球から出るというのも特徴の一つです。

ハロゲン電球は、石英ガラスの中にタングステンのフィラメントとハロゲンガスが封入されています。これに通電することで、ハロゲンサイクルと呼ばれる化学反応が起こります。ハロゲンヒーターでは、発熱体の温度は2000℃以上になり比較的高温ですが、このハロゲンサイクルにより発熱体の長寿命を実現しています。

ハロゲンヒーターは自動車用の鋼板のホットプレス、エンプラの熱間成形、半導体製造工程の熱源などに使われています。

ハロゲンヒーターの特徴

  • 種類(発熱体):ハロゲンランプ
  • 発熱体温度:2000℃以上
  • 最大エネルギー波長:約1μm
  • 用途:自動車用の鋼板のホットプレス、エンプラの熱間成形、半導体製造工程など

短波長赤外線ヒーター(近赤外線ヒーター)

短波長赤外線は近赤外線とも言われ、波長0.7~2.5 μmの電磁波です。

この波長域の赤外線を放射する短波長赤外線ヒーターは、最大エネルギー波長1.2~1.7μmほどと、ハロゲンヒーターと近い波長域の赤外線を放射します。また、発熱体のフィラメントとしてタングステンが主に使われている点も共通していますが、ヒーターとしての特性は少し異なります。短波長赤外線ヒーターは寿命や耐久性、エネルギー強度などの面でより優れていて、ON/OFFのスピードが早いという点が最も大きな特徴です。また、電力から放射エネルギーへの変換効率はおよそ90%と高効率なことも、短波長赤外線ヒーターの代表的なメリットとしてあげられます。

短波長赤外線は物質表面の色や平面度により吸収率が大きく変わるため、加熱にムラが発生しやすいという注意点があります。その反面、この特性を利用して集中的に一点を高温加熱することができます。このような特性を生かし、短波長赤外線ヒーターはPET延伸やCFRP(炭素繊維強化プラスチック)のプリプレグ成形などで活躍しています。

短波長赤外線ヒーターの特徴

  • 種類(発熱体):タングステンフィラメント
  • 発熱体温度:1400~2100℃
  • 最大エネルギー波長:約1.2~1.7μm
  • 用途:高温加熱、PET延伸、CFRPのプリプレグ成形など

中波長赤外線ヒーター(中赤外線ヒーター)

中波長赤外線ヒーターは、中赤外線とも呼ばれる中波長域を中心とする赤外線を放射するヒーターです。代表的な中波長赤外線ヒーターとしてカーボンヒーターがありますが、このほかカンタル線を発熱体として使うものもあります。中波長赤外線ヒーターの最大エネルギー波長は約1.7~2.7μmです。カーボンヒーターは1.7~2.5μmほどの短波長に近い波長域を含む広範囲をカバーし、カンタル線ヒーターは2.4~2.7μmと長波長域に近い側を得意とします。

中波長赤外線ヒーターでも、放射を受ける物体の表面の状態によって吸収率が左右されるという点は、短波長赤外線ヒーターと同じです。しかし短波長赤外線ヒーターほど極端ではなく、色による加熱温度に大きな差ができにくいという特徴があります。

こういった特性から、中波長赤外線ヒーターはインクジェット印刷の乾燥で効果的に使われています。黒い印刷部分だけでなく、他の色の部分もまんべんなく加熱でき、白い紙の部分は熱くならないといった使い方ができる点が、大きなメリットです。

中波長赤外線ヒーターの特徴

  • 種類(発熱体):カーボン、カンタル線
  • 発熱体温度:800~1450℃
  • 最大エネルギー波長:約1.7~2.7μm
  • 用途:インクジェット印刷後の乾燥、コピー機のトナー加熱、食品工場の加熱調理設備など

長波長赤外線ヒーター(遠赤外線ヒーター)

遠赤外線とも呼ばれる長波長赤外線は、4~1000μmの電磁波です。

長波長赤外線ヒーターは最大エネルギー波長を4μm付近に持ち、可視光線から離れた側の波長を放射する赤外線ヒーターです。長波長赤外線ヒーターには、最大エネルギー波長が15μmまでの広範囲に及ぶものもあります。長波長赤外線ヒーターは可視光線から離れた側の赤外線を放射するという特性があります。そのため、放射を受けている部分を見ても少し赤くなっている程度で、あまりまぶしくないという点も特徴の一つです。

発熱体にはセラミックや石英、金属酸化面などが使われ、電力に対する放射エネルギー変換効率は60~70%と、短波長赤外線ヒーターに比べると高くありません。

また、赤外線のエネルギーが物体に放射されたときに通り抜けていく割合、透過率においても違いがあります。長波長赤外線は透過率が低く、多くの物質の表面に吸収されます。このため表面だけが加熱されやすく、内部まで加熱されにくいという特徴があります。接着剤の乾燥のような場面では、表面だけが焼けてしまい内部が乾燥しないため適していません。

一方で、放射を受ける面の状態にあまり左右されないため、色によって加熱温度が変わりにくいという特性があります。これらの特性から、液晶用カバーガラスのような半透明のものを加熱する場合や、食品の加熱工程、プリント基板のリフローはんだ付けなどに使われています。

長波長赤外線ヒーターの特徴

  • 種類(発熱体):セラミック、石英、金属酸化面など
  • 発熱体温度:500~700℃
  • 最大エネルギー波長:約4μm
  • 用途:液晶用カバーガラスの加熱、食品の加熱工程、プリント基板のリフローはんだ付けなど

ハロゲンヒーター、短波長赤外線ヒーター、中波長赤外線ヒーター、長波長赤外線ヒーターと、赤外線ヒーターを四種類に分け、それぞれの特徴をご紹介しました。

このように、赤外線ヒーターのなかでもそれぞれが持つ波長ごとに特性が異なります。赤外線ヒーターを選ぶ際には、加熱工程の実質的な目的を考え、物質の表面状態や特性をよく把握したうえで、適した波長のものを選定しましょう。