直接加熱の4つの加熱方法を解説

~電磁波加熱・誘導加熱・抵抗加熱・アーク加熱~

工業用ヒーターとして使われる機会が多い赤外線ヒーターは、幅広い分野で活躍していますが、工業用ヒーターにはほかにも何種類かの加熱方式があります。今回はそのうち、電磁波加熱・誘導加熱・抵抗加熱・アーク加熱の4種類について、原理や特性、主な用途などをご紹介します。

概要

電磁波加熱

電子レンジの加熱原理でよく知られているのが電磁波加熱です。この電磁波加熱の代表的なものとしては、マイクロ波加熱と高周波誘電加熱があります。

木材や樹脂など電気を通しにくい物質(誘電体)は、電圧がかかっている空間(電界)の中では電気的平衡を保てません。その結果、分極という現象が起こります。これは正・負の電荷が現れる現象で、互いの電荷は引かれ合う性質を持ちます。これにより誘電体分子の電荷は整列しますが、ここに高周波電圧を加えると電荷が反転を繰り返し振動します。整列した分子が振動することで周囲と摩擦が起こり、熱が発生します。これが電磁波加熱の原理です。

マイクロ波加熱は、分子振動のための高周波電圧を加えるためにマイクロ波を用います。一方、高周波電界により分子の振動を発生させるのが高周波誘電加熱です。

電磁波加熱は対象の内部を加熱するため、表面だけが過熱することを防ぎ、均一な加熱が可能です。また、空気のような媒介からの熱伝達ではないため、袋の中のものや真空中のものも加熱できます。

電磁波加熱は誘電体の加熱を得意とすることから、木材やゴムの加熱に用いられています。高級建築材として使われる欅(けやき)や杉など銘木の乾燥、ゴム製品において強度を上げる加硫工程などで活躍しています。

誘導加熱

誘導加熱は、高周波誘導加熱または電磁誘導加熱とも呼ばれることがあります。高周波誘導加熱は上でご紹介した高周波誘電加熱と混同しやすい名前ですが、まったく異なる原理からなる加熱方式です。

誘導加熱の原理は、右ねじの法則でも有名な電磁誘導を応用したものです。コイルに電圧をかけたとき、周りには磁力線が発生します。これが電磁誘導です。

電源として交流電源を使った場合は、磁力線の向きは交互に入れ替わることになります。このとき、コイルの中またはすぐ近くに金属を置いた状態で電磁誘導を起こすと、金属内には磁力線の量や方向が変化するのを妨げる向きに電流が発生します。これはうず電流と呼ばれ、金属内を渦状に流れます。

どのような金属も必ず抵抗があるため、電流が流れることでジュール熱(抗のある導電体に電流を流すと、熱が発生すること)が発生し、金属が加熱されるという仕組みが、誘導加熱の原理です。

誘導加熱は被加熱物自体を直接加熱するためエネルギーの損失が少なく、急速過熱も可能です。また、周囲が高温になることもなく、作業環境に大きく影響することもありません。また誘導加熱により、導電体であるカーボン製の釜を加熱することで、内部においた絶縁性のものも加熱することができます。

誘導加熱は導電体、特に金属の加熱を得意とします。鋳造部品の原料となる地金の溶融や、ギヤ部品の焼き入れによる硬化処理などに使われています。

抵抗加熱

抵抗加熱は、最も原理を理解しやすい加熱方式と言えるかもしれません。先ほどご説明したジュール熱が抵抗加熱の原理ですが、この加熱方式において重要となるのは抵抗である発熱体の選定です。

金属発熱体としては、高温強度と成形性に優れたニッケル・クロムが最も普及しています。また、タングステンは超高温での使用に耐え、2400℃までの加熱が可能です。

非金属発熱体として最も普及しているのは炭化ケイ素ですが、断続使用には向いていません。一方、カーボンは抵抗加熱の発熱体として優秀で、急熱急冷に強く2600℃までの加熱が可能です。

加熱炉の中に発熱体を設置した抵抗加熱炉は乾燥や熱処理、焼成、溶解などさまざまな用途に幅広く使われています。また、発熱体でできたパイプの中に液体を通過させることで、液体食品の加熱殺菌にも応用されています。

アーク加熱

アーク加熱は、アーク放電による加熱方式です。絶縁体である空気のような気体の中に電極を設置し、弱い電圧をかけた場合もちろん何も起こりません。しかし高電圧をかけた場合、電極間にある気体の絶縁破壊が起こり、音と光を発生させながら電極から近い場所へと電流が流れます。これが放電です。

放電の分類のなかでも、アーク放電は比較的低電圧で大きな電流を流すことが可能です。アーク放電において光が放射されている中では、電子や中性子、イオンが飛び交っています。これらの衝突エネルギーが熱を生み出している原理のうちの1つめです。

同時に、被加熱物にも電子は放射されています。被加熱物に電子の運動エネルギーが伝達されることで、そこにも熱が生じます。これが原理の2つめです。

そしてもう1つが、被加熱物に電流が流れることによるジュール熱です。

これら3つの作用が、アーク加熱の原理です。

火を使った加熱では3000℃程度が限界ですが、アーク加熱は5000℃以上の加熱が可能です。対象への熱流束が非常に高く、高速熱処理を行うことができます。

鋳造工場では、アーク加熱により溶解した金属を型に流し込む前の予熱を行っています。加熱時間短縮、省エネ、熱や騒音の環境改善など、アーク加熱により多くのメリットが得られています。

電気エネルギーによる高効率な加熱

工業用に用いられる直接加熱方式のうち、電磁波加熱・誘導加熱・抵抗加熱・アーク加熱の4種類について解説しました。

加熱には、直接加熱と間接加熱があり、  間接加熱についてはこちら で解説しています。

これらはいずれも電気エネルギーを直接的または間接的に利用した加熱方式です。作業環境をクリーンに保ちながら、加熱する場所や温度を調節しやすく、省エネ・省スペースも実現します。




参考:
 エレクトロヒート情報|日本エレクトロヒートセンター