赤外線ヒーターの特徴と発熱原理

~光エネルギーで加熱する~

あらゆる分野で加熱や乾燥のために使われている赤外線ヒーター。赤外線ヒーターはどのような原理で物質を加熱しているのでしょうか。ここでは赤外線ヒーターが物質を加熱する仕組み、赤外線ヒーターのメリットと使用例をご紹介します。

概要

赤外線ヒーターの原理

赤外線ヒーターはどのような原理になっているのか、赤外線とは何かということから考えてみましょう。

赤外線とは

可視光線の一部は、人の目には赤色に見えます。可視光線は電磁波の一部で、380nm~770nmほどの波長を持ち、波長が長いほどより赤く感じますが、770nmより波長が長くなる辺りからは人の目では感じることができなくなります。この範囲の電磁波を、赤外線と言います。

波長範囲は学会の見解により多少異なりますが、およそ770nm~1mmの波長の電磁波が赤外線とされています。赤外線は、その性質から熱線と呼ばれることもあります。その呼び名の理由となる、「物質を加熱する作用」はどのような仕組みによるものなのか見てみましょう。

赤外線の加熱原理

温風ヒーターから出る風は、その風自体に温度を持ち、当たったモノや室内の空気を温めます。しかし、赤外線ヒーターの場合は温風ヒーターと違い、照射される赤外線自体には熱エネルギーはありません。

物質に赤外線を照射すると、物質表面で透過・吸収・反射の3つにエネルギーが分けられます。このうち、熱作用の元となるのは吸収されるエネルギーです。赤外線は電磁波であるため振動を持ちますが、物質を構成する分子も常に分子運動を行い、振動や回転といった動きをしています。物質に吸収された赤外線の振動が物質の分子運動と共振したとき、分子運動が増幅されて活性化され、分子同士の間に摩擦熱が生じます。

これが赤外線による加熱の仕組み、赤外線による加熱原理です。

赤外線ヒーターの特徴

赤外線ヒーターにはさまざまなメリットがありますが、特徴を理解して使わなければデメリットになる可能性もあります。

赤外線ヒーターのメリット

  • 熱伝導効率が高い
    電熱線ヒーターや石英ヒーターのような対流加熱では一度空気を温め、空気から対象に熱を伝えて温めます。このような電熱による加熱と異なり、赤外線ヒーターでは加熱対象物に直接エネルギーを放射し、対象の中で熱が生まれます。熱伝導に無駄がなく、効率の良い加熱方式です。
  • 省スペース
    熱効率が良いため、小型のヒーターで十分な効果が得られ、ヒーターの省スペース化を可能にします。
  • 高速加熱が可能
    対流加熱はヒーター自体が熱くなり、その熱を空気に伝えてから対象が加熱されます。しかし赤外線ヒーターは加熱対象物に直接熱を生じさせるため、数秒で加熱し始めることが可能です。
  • 省電力
    赤外線ヒーターはエネルギーの無駄が少なく、加熱効率が良いため省エネにつながります。
  • 調節が容易
    赤外線ヒーターは本数を増減したり、棒状・面状などさまざまな形状にしたりすることで、加熱する場所や範囲を調節できます。
  • クリーンな加熱
    空気を対流させて熱を伝達する仕組みと違い、加熱対象物への粉じん付着の心配が少ない点も特徴です。

赤外線ヒーターの注意点

  • 対象の吸収率に左右される
    赤外線ヒーターは、放射するエネルギーを加熱対象物が吸収することで発熱します。物質によって吸収率が異なり、金属のような反射率の高いものは加熱効率が上がりません。
  • 集光させなければ効率低下
    赤外線はヒーターから全方向(360度)に放射されます。これを加熱対象物に効率よく照射するためには、反射板を用いて赤外線を集光させる必要があります。
  • 水による赤外線の吸収
    水は特定の波長の赤外線を吸収してしまうため、加熱対象物の表面に水膜がある場合や水蒸気の多い環境では効率よく加熱することができません。
  • 周辺の耐熱温度
    赤外線ヒーターは加熱効率がよく高速加熱も可能なため、装置の周辺には十分に耐熱温度が高く熱膨張の少ない材質を使わなければなりません。
  • 停止時の安全対策
    赤外線ヒーターの電源が切れたあとでも、ヒーターにはまだ熱が残っています。ラインの緊急停止時や搬送装置の不具合発生時に備え、ヒーターの冷却装置または熱遮断装置などの安全対策が必要です。

赤外線ヒーターが使われている場面

以上のような特性により、赤外線ヒーターはさまざまな場面で活躍しています。例としては次のような分野での用途があります。

  • 塗装
    塗料の乾燥、粉体焼き付け塗装の乾燥工程など
  • プラスチック成形
    フィルム成膜から延伸・ラミネート・コーティング・エンボス加工などなど
  • 金属
    金属加工の予熱工程、溶接ビードの焼なましなど
  • 陶器
    陶器製品の乾燥や焼き付け
  • 窯業
    セメントの脱水や乾燥、焼成など
  • 薬品
    粉末薬剤やペレットの乾燥、容器の滅菌など
  • 建築材
    合板の接着や仕上げ乾燥、表面コーティングなど
  • 半導体
    シリコンウェハーの加熱
  • 印刷
    グラビア印刷、オフセット印刷などの乾燥
  • 食品
    加熱調理ラインでの焼き色付けなど

このほかにも幅広い分野で赤外線ヒーターは使われています。  他の用途についてはこちらをご覧ください。

高効率な加熱を実現

赤外線ヒーターの加熱原理と、どのような特徴とメリットがあるかをご紹介しました。熱伝導効率が高く調節が容易、そして作業環境への影響が少ないといった特徴から、赤外線ヒーターはあらゆる分野で使われているのです。  参考: 赤外線(せきがいせん)とは|コトバンク