自動車製造に使われる材質としてコスト面で優れる高張力鋼板とは

近年では地球環境保護の観点から自動車のさらなる低燃費化が注目されており、自動車の軽量化が研究開発されています。そのなか、アルミやCFRPといった新しい材質をボディに採用することが検討されていますが、強度面やコスト面が問題となることが多いです。そこで強度面とコスト面両方を解決できる材質として高張力鋼板が注目されています。どのような材質かご紹介します。

概要

高張力鋼板とはどんな材質か?

設計に携わる方であれば、聞いたこともあるかと思いますが、高張力鋼板とはどのような材質なのでしょうか? その特徴と使用例の一部をご紹介します。

高張力鋼板の材料特性

鋼材として一般的な材料とされるものはJISのSS材といわれる一般構造用圧延鋼材です。SS材には引張強度が規定されているのですが、高くても400MPaほどとされています。この引張強度がさらに高い鋼材が高張力鋼板(日本ではハイテンとも呼ばれます)です。引張強度の基準は国や鉄鋼メーカーにより異なりますが、基本的には340MPaから790MPaを高張力鋼板と分類しています。SS材と比べると比強度が大きく、強度を保ったまま軽量化が可能です。

近年ではさらに大きな引張強度を有する高張力鋼板も開発されています。700MPaから1,000MPaでは強靱鋼、1,000MPa以上では超強力鋼とされ、高張力鋼板の引張強度を上げるための研究開発は続いているのです。

私たちの周りにある高張力鋼板の使用例

高張力鋼板は先にも述べた通り強度を維持したままの軽量化が可能で、なおかつアルミやCFRPよりもコストを抑えることができます。そのため、強度が必要とされる建築や産業機械、車両などの構造物として多く採用されてきました。

例えば建設機械や作業車などの建築機械です。重量物を持ち上げるための機械なので強度が必要となりますが、重量が大きすぎるとトラックでの持ち運びが不可能となります。そのため、強度を維持したまま軽量化を実施する必要があることから、高張力鋼板が採用されています。

ほかには各国潜水艦に採用されています。浮力が必要なので重量を軽くする必要がありますが、一方で水圧に対する強度を確保しなくてはいけません。そこで高張力鋼板は最適な材料となるのです。

強度も高くコストも低いが自動車のボディに使いにくかった高張力鋼板

強度も高くコストも抑えることができることからさまざまな機器に使われる高張力鋼板は、一方で自動車のボディにはあまり使われていませんでした。その理由は成形性の悪さにあります。自動車のボディはプレス加工にて製造されるのですが、高張力鋼板の強度の高さがプレス加工で問題になるのです。

強度が高くなると、一方で延性が低下しプレス加工をした際の割れが生じる原因となります。また、強度が高くなるにつれスプリングバックという問題が生じます。スプリングバックとは、プレス加工の際に金型へ押し付けた鋼板がバネのように反発して反り返る現象のことを指します。高張力鋼板はスプリングバックが起こりやすく、設計通りの形状にすることが困難となるのです。

今では多くの自動車に採用されている! 高張力鋼板が使われた自動車

近年では高張力鋼板の加工技術もあがり、自動車への利用も増えてきています。いくつか例をご紹介します。

  • スズキのスペーシア
    新日鉄住金で製造された1,200MPaクラスの高張力鋼板は、スズキの軽自動車スペーシアに採用されています。運転席と助手席の足元付近にある車体下部フロアサイドメンバーに用いられており、車両重量を840kgまで軽量化し、燃費29.0km/lを達成しました。
  • マツダのCX-5
    住友金属工業株式会社及びアイシン高丘株式会社と共同で1,800MPa級の高張力鋼板を開発し、CX-5に設置しています。フロントとリアバンパーの内側に採用することで衝突時に車体が受けるダメージを低減し、従来の部材から強度約20%向上しているにも関わらず重量約4.8kgの軽量化に成功しています。
  • ホンダのACCORD
    ボディ骨格に多く高張力鋼板が採用されており、高いレベルでの衝突時におけるエネルギー吸収を実現しています。
  • トヨタのプリウス
    トヨタでは特殊加工により製造したホットスタンプ材という超高張力鋼板を採用し、一般的な鋼板に対し4~5倍の引張強度を実現しました。3代目プリウスでは3%の使用範囲だったものを、4代目では19%へと拡大しています。
  • 日産自動車のインフィニティQ50
    2013年度に1,200MPaクラスの超高張力鋼板をインフィニティQ50に採用し、約40kgの車体軽量化に成功しました。日産自動車ではほかにも2012年から2013年度に投入したスカイラインやアルティマなど6車種で、車両重量において各カテゴリーにおけるトップクラスの実績を達成しています。

これからも続く高張力鋼板の研究開発

近年の加工技術の発達により、高張力鋼板が使われた自動車も増加してきました。アルミやCFRPの利用も進んでいますが、コスト面では高張力鋼板が最も重要な位置にあると言えます。高張力鋼板の研究開発がさらに進むことで、今後もより安く、より安全な自動車が開発され続けることでしょう。