今と昔の自動車へCFRPを利用するための取り組み

自動車の低燃費化は長年取り組まれてきた課題であり、近年では地球環境保護の流れから、より低燃費化が注目されています。低燃費を実現するための有効な手段の一つが自動車の軽量化です。CFRPは自動車の軽量化を実現できる材質として自動車の製造へ利用されていましたが、スポーツカーや高級車に使われるのが主でした。しかし、近年の生産技術の進歩から大量生産化に成功してきており、一般車への利用も進んできています。本稿では自動車におけるCFRPの大量生産が困難だった時期と、技術が進歩した現状についてご紹介します。

概要

CFRPとはどんな材質か?

自動車に限らず製造関係の方であれば、CFRPについて知っている方も多いかもしれません。自動車にどのように使われているか説明する前に、まずはCFRPの特徴と使用例の一部をご紹介します。

CFRPの材料特性

CFRPとはCarbon Fiber Reinforced Plasticsの各頭文字を並べた略称であり、日本語訳は炭素繊維強化プラスチックです。一般構造用圧延鋼材であるSS400と比べると比重量は1/4以下と軽く、比強度で見ると鉄よりもおよそ10倍強い材料です。また、加工による熱膨張を起こしにくいことから寸法精度もよく、振動減衰性にも優れています。さらに高熱伝導率であり非磁性と、材料として使うにはとても優秀な材質です。

CFRPとは名前の通り、炭素繊維とプラスチック樹脂を複合させることで製造します。炭素繊維単体でも強度が高く、軽い材質です。しかし、構造が糸束であることから炭素繊維単体ではその機能や性能を十分に発揮することができません。そこでプラスチックとミクロでつなげることにより、CFRPという軽くて強い材料の製造が可能となるのです。

私たちの周りにあるCFRPの使用例

CFRPは軽くて強い材料特性を生かし、強度が必要なさまざまな箇所に使用されています。

強度が必要かつ軽くなくてはいけない分野といえば、航空宇宙分野でしょう。そのため、航空機の主翼や尾翼、胴体のほかに、ロケットや人工衛星にも使われているのです。また、建築土木分野でも橋脚や床版などのコンクリート補強や、ケーブルにも採用されています。

CFRPは私たちの身近にも多く存在しています。スポーツの分野においても軽さと強度は必要とされ、釣り竿やゴルフシャフト、自転車などに使われています。そのほか、車いすやつえ、人口骨などの医療分野、プリンターやオーディオなどの電気機器部品、さらには傘や眼鏡のような日用品と使用範囲はとても広いです。

軽くて強くてもコスト面が問題となるCFRP

ご紹介した通りCFRPは軽くて強く、そのほかにも優れた特性を持つ材質です。しかし、自動車に関してはF1カーや超高級車、または一部の部品にのみと、そこまで多用されているわけではありません。その理由がコストの高さにあります。

CFRPは重量当たりのコストが鉄鋼と比較すると非常に高価で、数~十倍ともいわれます。

製造方法は手によるハンドレイアップ法、高温高圧力によるオートクレーブ法、Resin Transfer Molding法とさまざまな手法が確立されています。しかしどの手法も時間のかかる手法であり、鉄に比べるとより多くの生産時間を必要とされます。

また、CFRPの炭素繊維は元の原材料に戻すことが金属材料に比べると難しく、リサイクル性も悪いのが欠点です。

そのためCFRPは大量生産に向いていないことから一般的な自動車へは利用されず、コストをある程度許容できるF1カーや超高級車にしか利用されてきませんでした。

現在における自動車のボディへのCFRPの利用

大量生産される自動車に対しあまり利用されてこなかったCFRPですが、近年の自動車の軽量化への取り組みと技術の進歩に伴いボディやその他の部分への利用も増えてきています。本章ではその一部をご紹介します。

BMWにおけるi3のボディへの採用

量産車としては初めてCFRPがボディに採用され、車両重量を1,300kgにまで軽量化しています。CFRPを生産プロセスへ再利用することを可能にしており、使用されている素材のうち95%ほどをリサイクルしています。

トヨタのレクサスLFA

2010年から2012年に限定販売されたレクサスのスポーツカーLFAにもCFRPが採用されています。ボディの65%のCFRPを採用しており、車両重量を1,480kgに抑えることに成功しています。

トヨタのFCV、MIRAIに搭載される高圧水素タンク

トヨタで製造されているFCV(燃料電池車)であるMIRAIは構造部品にCFRPを採用しました。高圧水素タンクという燃料電池車の心臓部といえる部品にCFRPを用いています。燃料である水素は原子の径が小さいことから、金属材料では水素を通してしまう、または金属を劣化させてしまう恐れがあります。そのため、樹脂材料かつ高強度であるCFRPが最適といえるのです。

CFRPの自動車への利用はこれからもさらに進むでしょう

高価格であることから自動車への利用を控えられてきたCFRPですが、生産技術の発展により利用の幅が広がってきています。自動車の低燃費化実現のため、CFRPの研究開発はこれからも続けられていくでしょう。CFRPの自動車への利用が一般的になれば、軽量化により低燃費になり私たち利用者の負担が小さくなります。さらに強度も高いので、安全性も高くなるでしょう。

自動車は私たちの生活には欠かすことができなくない存在です。CFRPの利用が進むことは、必ず私たちにも大きな利益をもたらすことになるでしょう。