熱吸収波長・最大エネルギー波長・加熱効率の関係とは?

赤外線ヒーターによる加熱をするとき、加熱効率を高めるにはどのようなことに注目して考えるといいのでしょうか。加熱効率を高めるためのポイント、熱吸収波長と最大エネルギー波長の関係についてご紹介します。

概要

赤外線加熱の原理とエネルギー分散

赤外線ヒーターは、電磁波による輻射(ふくしゃ)作用を利用して加熱対象物を加熱しています。電磁波の一種である赤外線は、ヒーターの発熱体から放射されると一直線に進み、物質の表面に到達したとき次の3つの状態にエネルギーが分散します。

反射:物質の表面で跳ね返されるエネルギー

透過:物質を通り抜けていくエネルギー

吸収:物質によって受け止められるエネルギー

この3つのうち、熱に変わるのは吸収されたエネルギーです。

吸収された赤外線は、その電磁波としてのエネルギー、振動を物質に伝えます。物質の内部では常に分子運動が行われていますが、この分子運動と赤外線の振動が共振することで分子運動が活発化、分子同士の摩擦も大きくなります。こうして増幅した摩擦により熱が発生するのが、赤外線による輻射加熱の原理です。

こうした輻射加熱の原理については、こちらでも詳しくご紹介しています。  参考:輻射加熱の特徴と原理―物質の持つ輻射率と吸収率とは

では、吸収されずに反射、または透過したエネルギーはどうなるのでしょうか。これらは、再びどこかへ進み、またほかの物質に当たり反射や透過、吸収され、最後には空気の中の水蒸気や塵(ちり)などに吸収され消えていきます。

このように、反射・透過・吸収の3つに分散されたエネルギーのうち、目的のものを加熱するために使われているのは吸収されたエネルギーだけです。「効率よく加熱する」ことを考えたとき、反射や透過するエネルギーの割合を減らし、吸収されるエネルギーの割合を増やせばいいということが分かります。

そのためには、どのような点に注目して赤外線ヒーターを使えばいいのでしょうか。

赤外線ヒーターの種類と波長

赤外線が電磁波の一種であることは先ほどもご紹介しました。電磁波は波長によりその特性や呼び方が変わります。例えば私達が目で感じることのできる光、すなわち可視光線も電磁波の一種です。目で感知できるのは、およそ400nm~770nmの波長で、この範囲の電磁波が可視光線と呼ばれているのです。そしてこの可視光線の範囲より波長の短い電磁波には、紫外線や放射線といった呼び方があります。一方、可視光線より波長の長い電磁波は、赤外線や電波と呼ばれています。このうち、波長約770nm~1mmの部分が赤外線です。

このように赤外線も波長の幅を持っていますが、その範囲内でも波長の長いにより特性が変わります。そのため、赤外線をさらに小別したのが次の3つの区分です。

  • 短波長赤外線(近赤外線)
  • 中波長赤外線(中赤外線)
  • 長波長赤外線(遠赤外線)

この区分は、学会や団体によって境目が異なりますが、一般的に短波長赤外線は770nm~2.5 μm、中波長赤外線は2.5μm~4μm、長波長赤外線は4μm~1mmの波長域とされています。

そしてこの波長域により、赤外線の持つ加熱特性も異なります。このため、効率よく加熱することを考えると、赤外線ヒーターの使い分けが必要となるのです。

一般的に、赤外線ヒーターは次の4種類に分けて考えることができます。

  • ハロゲンヒーター
    ハロゲン電球を発熱体に使用したヒーターです。短波長赤外線ヒーターに含まれる場合もありますが、可視光成分を多く含む、より短い波長域を持つため、ここでは分けて考えます。
    最大エネルギー波長(最も多く含まれている波長)は約1μmです。
  • 短波長赤外線ヒーター
    主にタングステンをフィラメントとして使用しているヒーターで、ハロゲンヒーターに対し寿命や耐久性、エネルギー強度などの面で優れます。素早いON/OFF切り替えが可能な点が最大の特徴でもあります。
    最大エネルギー波長は約1.2~1.6μmです。
  • 中波長赤外線ヒーター
    カーボンヒーターやカンタル線ヒーターがこれに含まれます。短波長赤外線ヒーターに比べ、物質表面の吸収率に左右されにくい加熱が可能という特性があります。
    最大エネルギー波長は約2~2.6μmです。
  • 長波長赤外線ヒーター
    最も可視光線から離れた波長域を持つため、多くのエネルギーを赤外線として照射できる点が特徴です。セラミックや石英などが発熱体に使われます。
    最大エネルギー波長は約4μmです。

このように赤外線ヒーターは、「どの波長域の赤外線が最も多く含まれているか」によって種類が分けられています。この分類がどのように加熱効率に関わるのでしょうか。

物質の持つ熱吸収波長と加熱効率

赤外線ヒーターによって効率よく加熱するためには、照射されたエネルギーのうち吸収されるものの割合を増やすことが必要です。それには、加熱したい物質に注目する必要があります。

物質はそれぞれに吸収しやすい波長があります。

例えばセラミックやプラスチック、木材のような物質は、短波長赤外線では吸収率が低く、長波長赤外線の吸収率は高くなります。一方、金属は可視光線に近い短波長赤外線の方が吸収率は高く、長波長赤外線は大部分を反射してしまいます。

このように物質ごとの吸収しやすい波長は、熱吸収波長と呼ばれます。物質の熱吸収波長を把握し、それに適した波長域を持つ赤外線ヒーターを選ぶことで、効率のよい加熱が可能となるのです。

しかし、熱吸収波長に適していても、目的とする作業によっては「効率のよい加熱」とは言えなくなる場合もあります。セラミックや木材などの非金属は、長波長赤外線での吸収率が高くなりますが、長波長赤外線は急速な加熱ができません。波長が長いため振動の間隔が大きく、物質の分子運動を活発化させるエネルギーが小さいためです。これは、加熱できる限界温度が低いことも意味します。

このようなことから、熱吸収波長が長波長赤外線に適している物質でも、急速加熱や高温加熱したいといった条件の場合、短波長赤外線を使う方がいいこともあります。

熱吸収波長は物質表面の状態によっても大きく変わる点にも注意が必要です。金属は表面に光沢があると短波長赤外線でも反射率が高く、加熱効率は大幅に落ちます。しかし表面に凹凸が付いていたり、酸化変色したりしている場合には吸収率が高まり加熱が可能になります。

このように、赤外線によって効率よく加熱するためには、次の点に注目して加熱プロセスを考えてみることが重要となります。

  • 物質の熱吸収波長
  • 赤外線ヒーターの最大エネルギー波長
  • 物質の表面の状態
  • 温度や時間といった加熱プロセスが目指す条件

波長を考えることだけが、加熱効率に大切なのではない

赤外線ヒーターによる加熱について、波長と加熱効率がどのように結び付くのかをご紹介しました。

効率のよい加熱を考えるときには、今回ご紹介したように物質の熱吸収波長を把握することはヒーターを選定することが重要なポイントの一つです。しかし、加熱全体を考えた時に、吸収波長だけを考えれば良いわけではない点が難しいところです。

他の点については、他の技術資料でご説明します。

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