【金属のプレス加工基礎知識】加工の種類・成形前後で使用される加熱について解説

金属のプレス加工にはさまざまな種類があり、加工を金属の成形前に行うか、成形後に行うかなど目的によって使われる加工の種類が異なってきます。そのため、金属プレスの加工方法をいくつか把握していなければ理想とした製品はできません。

本記事ではプレス加工の種類やメリットについて網羅的に紹介しているため、以下のような悩みを抱えている方はぜひ参考にしてみてください。

  • 金属の加工技術、特にプレス加工について概要を知りたい
  • 新しい製品を開発する際や既存の製品を改良する際に、金属プレス加工がどのように活用されているのかを知りたい

目次構成

金属のプレス加工とは

プレス加工とは、金属やプラスチックなどの材料を特定の形状に加工する製造プロセスのことであり、金属のプレス加工では、金型を使って材料となる金属板の形を変えたり打ち抜きしたりします。

このプロセスでは材料が加工機械によって圧力をかけられ、型に合わせた形状への成型が可能です。

一般的にプレス加工には専用の機械や工具が使用され、材料は板状やストリップ状の形態で加工します。

プレス加工は戦後自動車の技術が発展したことで、大量生産が必要になった際に広まった手法です。元々は水圧プレスが一般的でしたが、技術の発展に伴ってさまざまな加工方法が開発されてきました。

金属のプレス加工のメリット・デメリット

メリット

大量生産ができるという点以外にも、材料を機械にセットするだけで加工できるという強みがあります。材料の歩留まりが高いだけでなく、安定した品質を担保できるため、属人化しにくく、半自動化が可能です。

また、プレス加工ではファイバーフローという筋状の組織が切れないまま加工されるため、軽量で強度が高くなります。

デメリット

プレス加工の場合、製品の形状ごとに金型が必要になるため、その製作の初期費用が高いというデメリットがあります。金型の精度が製品の品質を左右するため、想定よりも高額になったり時間がかかったりします。また、金属であるがゆえに、適切に保管しないと早く破損する恐れもあり、メンテナンス費や追加の製作費がかかってしまうことも考えられます。

このようなことから、金型にかかった費用の採算が取れず、少量生産には向いていないことが分かります。

金属のプレス加工が使われる製品

プレス加工はさまざまな製品に使われていますが、中でも特に代表的なものは自動車の部品であり、ボディやドアなどの部品をはじめ、新幹線や宇宙ロケットなどの外装部品を作るのにも多く使われています。

その他にも、私たちが使っている多くのものが金属プレス加工を利用して作られており、エアコンなどの大型家具をはじめ、スマートフォンや携帯電話などの日用品や医療器具など、用途は多岐にわたっています。

金属プレスの主な加工方法

プレス加工にはいくつかの加工方法があります。それぞれの特徴については以下の通りです。

せん断加工・・・板状の材料を上から加圧することで材料を切断する加工方法。

穴をあけたり、切り抜いたりとさまざまな種類があり、プレス加工の中で最も一般的な加工方法。

曲げ加工・・・材料を曲げる加工方法であり、平面の材料を立体的に加工することも可能。

加工する形はさまざまあり、L字・V字・Z字など目的に合わせた形にできる。

絞り加工・・・材料に凹凸をつけられる加工方法。

円筒状のブランクをダイや成形器に押し込んで中心部を空洞にすることで、円筒形状から中空の形状に変形させることが可能。主に缶詰や自動車部品のエンジンカバーなどで使われる加工法。

このように、金属のプレス加工には様々な手法がありますが、昨今では、新しい材料の出現で新しい加熱の工程が増えてきています。そこで次章では、最近の動向における金属プレス成型についてご紹介します。

加熱が必要となってきたプレス加工

常温で行う「冷間プレス加工」

成形加工の工程のほとんどが、室温の状態(材料が冷たい状態)でプレス成型する「冷間プレス加工」を使用しています。冷間プレス加工では、アルミニウムや銅、ステンレス鋼、鉄などの金属に適用できます。

常温での加工のため、寸法精度が高く、表面が良好なまま加工できる点がメリットである一方、変形するのに大きな力が必要なため、機械への負荷が高かったり、加工中に割れや欠けが生じやすかったりといったリスクがあります。

そういったリスクを回避する加工方法として、昨今注目を集めているのが、加熱を要しながら加工をする「熱間プレス加工」です。

昨今注目を集める「熱間プレス加工」

昨今では従来の強度を保ったまま、部品の軽量化・金属の薄肉化が求められるようになり、常温で加工する冷間プレス加工では対応できない材料もあります。そういった特殊な加工が必要な場合に活用されるのが、材料を急速に温め高温で柔らかくなった状態で金型に入れ成型する「熱間プレス加工(ホットスタンビング)」です。

特に、自動車業界など強度や耐久性が必要な業界において高い関心が寄せられています。

<熱間プレスで加工される代表的な材料例>

●高張力鋼板(ハイテン材):

一般的な鋼材よりも引張強度が大きい材料で、薄肉にしても衝突性能を保ちながら軽量化が図れる。また、耐食性があり錆びにくい。従来の鋼板にくらべて強度が高いため、より能力の高いプレス機械や、高度な金型加工が必要になる。約900℃まで加熱して加工される。

●アルミニウム合金:

強度に優れており、柔らかい性質を持っている材料。金型やネジなど自動機の部品などに活用。ハイテン材とは異なり、400~500℃に加熱し、素材の割れなどが発生しないように、比較的ゆっくりした速度で加工される。

このように、熱間プレス加工は様々な業界で活用が進んでおり、材料を短期間で高温にするために赤外線加熱が注目を集めています。赤外線加熱では、非接触で熱を加熱対象物に透過できるため、高い照射効率を得ることができます。赤外線加熱の詳細については、下記記事をご覧ください。

金属の成型後に必要となる加熱

鉄鋼の場合、熱間プレス加工のように加工前に熱を加えるだけでなく、後工程で熱を加える手法も用いられています。本章では、金属成型後にどのような工程で加熱が必要となるのかについて解説します。

焼き入れ・焼き戻し

焼き入れ・焼き戻しは、金属の熱処理プロセスで、特に鋼の機械的性質を改善するために広く用いられています。これらのプロセスを通じて、金属製品の品質や強度を向上することができます。

焼き入れとは、金属を特定の高温まで加熱し、その後急速に冷却することで、金属内部の結晶構造を変化させて硬度を増加させることができます。焼き戻しは、焼き入れによって得られた硬度を維持しつつ、金属の靭性を高め、使用に耐えうる柔軟性を与えることができます。

焼きなまし・焼きならし

焼きなましや焼きならしは、金属の加工をしやすくするために用いられるプロセスです。

どちらも、金属を適切な温度まで加熱し、一定時間保持した後、ゆっくりと冷却させることで、金属の硬度を下げ、加工性を向上させることができます。

補助加熱

補助加熱は、生産プロセスの工程中で搬送をする際に、製品が冷えるのを回避するために活用される加熱手法です。ガス炉で一度加熱したものの、次工程までに冷やしたくない場合に、部分的に加熱をすることがあります。

部分加熱

部分加熱は、名の通り、製品を局部的に加熱することができる加熱手法です。通常、金属を成型する場合は、ガス炉などを活用して全体的に加熱をしますが、成形後に一部分の加工を行いたい場合、部分加熱を行います。

ガス炉で加熱すると全体が加熱されてしまうため、赤外線ヒーターのように限られたスペースで局所的に、手軽に加熱ができる加熱方式を採用することが多くあります。

赤外線は、部分加熱だけでなく、成型前の加工である「熱間プレス加工」や、補助加熱を行う際に頻繁に活用されています。熱間プレス加工では、従来は高温炉を使用していましたが、炉長が長く加熱時間もかかってしまう課題から、赤外線加熱を組み合わせて使われるようになりました。赤外線ヒーターを活用することで、フットプリント削減、加熱速度アップ、生産効率向上など、様々な利点を享受できます。

そのため、赤外線ヒーターは金属の成型前・成型後どちらにも柔軟に活用いただけます。

金属の加工において活躍する赤外線ヒーターの概要や活用メリット等について知りたい方は、以下の資料をご覧ください。

ホワイトペーパー「【基礎知識】赤外線ヒーターの導入ガイドブック」

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